
2020年6月15日 18時08分(最終更新 6月15日 18時09分)
https://mainichi.jp/articles/20200615/k00/00m/040/098000c
児童虐待対応を担う児童相談所(児相)について、独自に設置できる東京23区と設置を見込む中核市の計29市区のうち9市区で、計画延期や延期の可能性があることが毎日新聞の調査で判明した。相次ぐ深刻な虐待事件を受け、国が人員増などの体制強化策を打ち出し、現場での専門職員の確保が従来以上に難しくなった影響が大きいとみられる。
児相は都道府県と政令市に設置が義務づけられている。児童福祉法の改正で中核市は2006年度から、東京23区は17年度から、それぞれ独自の児相が設置できるようになった。調査は23区と、開設を予定・検討している6中核市を対象に実施した。
5月時点で開設の「延期を決めた」と回答したのは新宿、文京、品川、豊島、北の5区で、期間は最長4年だった。「延期する可能性がある」としたのは愛知県豊橋市と千代田、中央、目黒の3区。理由は「専門性を有する職員の確保が困難になったため」(文京区)、「職員配置数・専門家確保などの計画を再検討するため」(豊島区)など、いずれも人材確保が難しいことを挙げた。
国は18年12月に策定した対策強化プラン(新プラン)で、児相に配置する児童福祉司を22年度までに2020人程度、児童心理司を790人程度増やすことなどを打ち出した。また19年4月には政令で児童福祉司の配置基準を人口4万人に1人から人口3万人に1人に引き上げた。こうした国の方針によって「人材確保に影響があった」と回答したのは15市区に上った。
千葉県野田市で19年に栗原心愛(みあ)さん(当時10歳)が亡くなった事件など、児相が虐待を把握していても最悪の事態を防げなかったケースも少なくない。NPO法人「児童虐待防止協会」(大阪市)の津崎哲郎理事長は「児相や職員の数を増やすのは、目に見える分かりやすい対策だが、育成には時間がかかる。専門性がない職員ばかり増えれば、かえって悲劇を招くことになる」と警鐘を鳴らす。
独自の児相は中核市の横須賀、金沢、明石の3市に続き、23区で今年4月に世田谷、江戸川の両区が開設した。荒川区は7月の設置を予定する。【野村房代、熊谷豪】