
秋田犬「ゆめ」をなでるプーチン大統領(2016年12月撮影)

2018年は戌年。CMなどの人気をネコと二分してきたイヌが、干支の勢いに乗ってさらに躍進しそうです。中でも注目は、日本犬の代名詞とも言われる秋田犬 。 凛々しい風貌と忠実な性格が世界中で愛されていますが、実は遺伝学の分野でも非常に貴重な存在なのです。そんな秋田犬の知られざる魅力を紹介します。
大統領もアーティストも……世界の著名人たちを魅了
東京・渋谷駅前の忠犬ハチ公像を知らぬ人はいないでしょう。
東大教授の主人を渋谷駅前まで送り迎えし、その亡き後も、知らずに待ち続けた忠犬ハチ公の物語は世界的に有名です。最近はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の発達によって、海外での知名度はますます高まっています。
ところで、ハチ公の犬種をご存じでしょうか。――答えは秋田犬です。
1923年11月、秋田県北部の大館市の地主、斎藤家で4匹の子犬のうちの1匹として産声を上げました。斎藤家は、元国連事務次長、明石康さんの母方の実家でもあります。
秋田犬といえば、ロシアのプーチン大統領の愛犬もそうです。
2016年12月、メスの秋田犬「ゆめ」を伴って、読売新聞と日本テレビの独占インタビューに応じました。クレムリンの宮殿で、大統領を護衛するように現れた姿をご記憶の方もおられるでしょう。
ゆめは、2012年7月、秋田県の佐竹敬久知事から贈られた秋田犬です。
プーチン大統領だけでなく、秋田犬を「特別な犬」と感じる著名人は枚挙にいとまがありません。
「他の犬には絶対に同じだけの優しさを感じることはない」と表現した社会活動家ヘレン・ケラーをはじめ、大相撲の横綱・白鵬、フランスの俳優アラン・ドロン、米国の歌手スティービー・ワンダー……。米映画「HACHI 約束の犬」(2009年)で秋田犬と共演したリチャード・ギアも、もちろんそうです。
先祖は「マタギ犬」
秋田犬は明治時代に秋田県で誕生した犬種です。土台となったのは、東北地方のマタギ犬でした。マタギとは狩猟で暮らした人々で、猟犬はマタギ犬と呼ばれました。
幕末から明治時代にかけて、秋田県では闘犬大会が大流行し、豪農や資産家が体格の良い犬同士を掛け合わせました。ここからマタギ犬の大型化が始まります。
さらに、超大型犬マスティフなど洋犬の血も取り入れられたとされ、現在に通じる秋田犬が誕生しました。飼い主に忠実な性質と立ち耳・巻き尾の姿はマタギ犬のままで、体格は二回りほども大きくなったのです。地面から肩までの高さ(体高)は65センチほど、体重は50キロ近くになることもあります。
洋犬種に劣らぬ体格と威厳を備えた秋田犬は、柴犬など日本犬6品種(かつては7品種)のうちの一つです。
1931年には、日本犬として国の天然記念物の第1号に指定されます。背景には、明治以降の急激な西洋化に反発する社会機運がありました。犬の世界でも、明治維新後にどっと流入してきた洋犬に、日本犬は駆逐されそうになっていたのです。
翌32年に登場したのがハチ公でした。新聞や雑誌、ラジオが取り上げ、その名声は、日本犬の地位を高めることに多大な役割を果たします。秋田県の秋田犬保存会(設立1927年)、東京都の日本犬保存会(同28年)は、ハチ公人気の後押しを受けて活動が盛んになりました。
戦後の高度成長期が始まる前後から、秋田犬を番犬として飼う人が増えました。高値で取引されるようになり、ブリーダーが雨後の竹の子の如く生まれ、秋田犬の展覧会(ドッグショー)は愛好家や見物客であふれかえりました。1960年代後半〜70年代前半には空前のブームを迎えます。
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